いや~面白い。
著者の加藤博二氏が森林官として、様々な山の暮らしや出会いをまとめたエピソード集なのだが、残念ながらこの方の著書は2冊しか出ておらず、もっと作品を読みたいものの読めないのである。
昭和初期に森林官として信州の各地の深山を渡り歩き、山稼ぎ人の暮らしや、部落の奇習、山乞食のような世捨て人の経緯、はたまた山娘の恋慕情など、現代では考えれない野蛮で残忍、それでいて純粋な人々の人生模様が面白い。
昭和初期の作品ながら堅苦しい事もなく、山男っぽい無骨さもなく、極めて知的な文章で、まるで女性が書いてのではなかろうかとも思えるほどのしなやかさを感じる。
うんちくや私情というものを極力排除した作風で、物語の世界を素直に描いている。
そのことがかえって感情移入しやすく、読み手の捉え方に委ねているのだろう。
物語の構成や演出も工夫がされており、森林官とは思えない文章家としての才能がある人なのだろう。
それにしても昔の深山の暮らしは野蛮で残忍だ。
人の妻欲しさに、隣人の亭主を洞窟に閉じ込め、亡き者にするとか。
またその亭主も洞窟の中でうさぎの肉を食らいながら1年間も命を長らえるとか。
また、気に入った山娘をさらって強引に嫁にする習慣がある部落など
野蛮で残忍で過酷な暮らしでありながらも、シンプルな欲が突き動かす人間の本能やら無垢な心情やらがユーモラスでもあり、感慨深くもあり。
このような昔の良本をよくもまぁ見つけ出してきたなぁと純粋に思う。
どうやら作者の消息が不明なようで、本の末巻には
本書は、加藤博二著「飛騨の山小屋」を改題して再刊するものです。表記等は時代背景を鑑み、そのままとさせていただきました。
加藤博二氏ないしご家族にお心あたりをお持ちの方は、編集部までご一報いただけると幸いです。
と書かれている。
この先、いつまでこの本が流通するのか分からない。
もしかして絶版になるかもしれないので、とりあえずこの本は手放さずに置いておこうと思う。
ではでは。