暮らしの顛末(くまくまコアラ)

50代サラリーマン、趣味は1人旅、バイクツーリング、写真撮影、温泉、銭湯巡り。 古い町並みが好きで歴史を感じる関西の各所をブログで紹介しています Canon EOS RとRICOH GR IIIを愛用して観光地巡りやら旅行、アウトドアで風景写真やらを撮っているミニマリストのブログ。 愛車は1号機DAHONのRoute。2号機Kawasaki Versys-X250。3号機TOYOTA のプリウス

OSO18はいかにして怪物ヒグマとなったのか。知られざるあっけない最後までの追討劇

藤本 靖著「OSO18を追え ”怪物ヒグマ”との闘い560日」読了。

 

2019年から2023年までの5年間で、牧場の牛66頭を襲った北海道のヒグマ「OSO18」
OSO18特別対策班として約1年5か月に渡り、OSO18を追跡したドキュメンタリーなのだが、その内容は、OSO18の出現には現代社会の構造やら、根深い社会問題が横たわっていること。
また、OSO18一匹を駆除したとて、根本的な問題解決にならないことなど、いろいろ勉強になったので紹介したい。

 

 

OSO18というコードネームの名前の由来とは

私が初めてOSO18という名を耳にしたとき。
なんて無機質で気味の悪い化学兵器のような名前なんだと思った。

ヒグマによる牧場の牛の被害は2019年8月から始まる。
最初の被害から3年経った2021年。
OSO18は毎年牧場の牛を襲い、2019年は28頭、2020年は5頭、2021年は24頭と3年間で57頭の牛が襲われるものの、OSO18の駆除はおろか、その足跡、行動範囲すら把握できずにいた。
そこで、市町村内外からベテランハンターを収集、組織し、OSO18特別対策班を結成した。

まずはこのヒグマにコードネームをつける。
最初の被害現場がオソベツという地域であること。
そしてその現場付近で見つかったヒグマの足跡が18㎝だったことからOSO18とネーミングがつけられた。

北海道ヒグマ史において、異名のついたヒグマはOSO18を含め過去、2頭しかいないらしい。
もう1頭は地元のハンターに捕獲された体重500㎏という巨大なヒグマ「北海太郎」というそうだ。

ちなみに足跡18㎝から体重を計算すると400㎏前後のヒグマとなるようだ。
しかしながら、ヒグマの足跡の大きさを正確に計測するには、新鮮な足跡である必要があり、ベテランハンターでないとその足跡の大きさを見誤るのだそうだ。

現にその後、ベテランハンターが計測すると、OSO18の足跡は16㎝であり、その体重は300㎏前後とということが分かった。

 

OSO18は他のヒグマと違っていた!どのようにしてOSO18は怪物となったのか

OSO18は奇妙は食生活をしていた。
そもそも熊は雑食性ではあるが、8割~9割は木の実や山菜などを食べ、残りの1割程度がハチミツやアリ、鮭などを食べる。
しかしOSO18特別対策班が山の中を捜査した時、木の実や山菜が豊富に実っており、ヒグマがそれらの餌に手を付けないでいることが分かった。

また、捕獲檻を設置する際、誘う餌にハチミツベースの餌を使用すると効果抜群なのだが、OSO18はその餌すら見向きもしなかった。

OSO18を捕獲後、その大腿骨を調べてみたところ4歳~8歳までの間、常に肉を食べていたことが判明。

ではOSO18はなぜ肉食に偏っていったのか。

その原因は人間によるエゾシカの不法投棄であった。
増えすぎたエゾシカの駆除にあたり、本来は捕獲したエゾシカはハンター自身で持ち帰るもしくは処理施設に持ち込むことになっているが、数が多いとそれも一苦労。
そこで山から沢に向けて捕獲したエゾシカを捨てていくわけだ。
その数100頭というから、国有林の放棄問題となっている。

なんの苦労もなく、エゾシカの肉にありつけるこの不法投棄はヒグマにとっては絶好の食事場所になる。

OSO18はこのありあまるエゾシカの肉をくらい。
まるで狩猟でも楽しむかの如く、牧場の牛を襲うようになった。
本来、熊は自分が捕った獲物に執着する習性があるが、これだけ簡単にエゾシカの肉が食えたなら・・・
食うために絶対獲物を死守するという本能は薄れるのだろう。

 

ハンターのテリトリーという問題

害獣駆除はその地域の市町村内の行政で駆除するという習慣になっているらしい。
OSO18も同じく、被害のあった牧場の市町村内の行政であれこれ対策を取っていたわけだが、何分その地域は普段からヒグマの出没頻度が低く、ヒグマに対する対策ノウハウがそもそもなかったそうだ。
なのでハンターの数も少なく、経験も浅かった。

とはいえ、3年間で57頭もの牛が襲われており、牧場の被害は大きい。
そこで、北海道は市町村をまたぐOSO18特別対策班を設け、市町村外のベテランハンターによる駆除プロジェクトが立ち上げられた。

通常このような市町村を横断する対策チームというのは情報共有は意見の不一致などが多く、トラブルになるケースも多いが、このOSO18特別対策班の場合は意思疎通や行政との風通しの良さなどで苦労はあったものの、非常に有意義な活動ができたそうだ。

ちなみにある地域のクマを駆除するために別の地域のハンターが活動をしたという事例は大正期の三毛別ヒグマ事件以来らしかった。

 

自分より体の大きな熊を避けるOSO18のあっけない最後

2023年8月、ついにOSO18が捕獲された。
それもOSO18特別対策班が捕獲したのではなく、あるハンターが捕獲したクマがOSO18である可能性が高く、捕獲したハンターはOSO18とは知らずに捕獲。
すでに食肉として加工された後だった。

あれほど臆病で慎重で、ずるがしこいOSO18がなぜいとも簡単に捕獲されたのか。

そのころ、OSO18が活動する山にはOSO18よりも体が大きなヒグマが数頭確認されていた。
クマの天敵はクマであり、自分よりも体の大きななクマを避けるわけだ。
OSO18も同じく、大きな熊の存在を知り、それらを避けるように活動をしていたわけだが、その際にエゾシカ駆除のためのワイヤーのくくり罠に前足がかかった。

捕獲されたOSO18の当時の写真を見ると、前足の掌が鬱血して腫れあがっているのが分かる。

OSO18は使いものにならなくなった前足を引きづるように牧草地へとたどり着き、身を隠す場所すらない丘の上で力尽き横たわっているところをハンターに駆除されたそうだ。

 

まとめ

ベテランハンター達が経験、知見、情熱を注いでOSO18に迫っていく様子が細かく分かり、これまでヒグマに縁のない関西在住の私でも興味深々で読むことができた。

また、OSO18は非常に臆病なクマで人間の臭いなどにも敏感であり、牧場の被害現場では人の臭いを残さないよう最小限の人数で現場確認をしているにも関わらず、TVメディアが被害現場を荒らすなどのエピソードはメディア側の無頓着ぶりが滑稽であった。

著者はOSO18を駆除したからといってこれでは終わりではないと警告をしている。
エゾシカの不法投棄問題もそうだが、エゾシカ猟において、くくり罠の設置も禁止されているらしい。だがそれは後を絶たず。

今後、第二、第三のOSO18がいとも簡単にエゾシカの肉にありつける環境は変わらぬままだ。

一時期、情報番組では人里に出てきたクマを殺すのは可哀そうなどの戯言をいうクレームが市町村に寄せられていると報道があった。

人が住む町にクマが出るのはクマの生息域に人が分け入って開発したからなど、獣と人間の共存を前提に人間が獣の生息域を壊しているという人もいるが・・・

この本を読むと、そんな漠然とした問題意識がどれほど現場を知らない人の浅知恵だったかが分かる。

前述したTVメディアの無頓着ぶりもそうだが、大の大人が動物が可哀そうという子供じみた感情をあらわにしたり、我々都心に住む的外れな問題意識など、この本に登場するハンター達からすると、はだはだオホらしく思えるのだろう。

Amazonレビューも高評価なのでぜひぜひ読んでみてくださいな。

そんなことを思う今日この頃です。
ではでは。